エストニア映画「ノベンバー」で分かるエストニアの生活

エストニア映画「ノベンバー」で分かるエストニアの生活

エストニア映画「ノベンバー」はタイトル通り11月直前から始まりました。
上映作品に定評のある、シアター・イメージフォーラムでの上映なので、当初から期待していました。その昔「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」というアメリカの大人気ドキュメンタリーを観たのもここでした。

「ノベンバー」はエストニアの有名作家のアンドルス・キヴィラークのベストセラーの映画化作品です。
予告動画を観る前に確認していましたが、映像が全て白黒。白黒の効果を最大限に活かした衣装や撮影方法がストーリーと同様に印象深いものとなっていました。
ちなみに、アンドルス・キヴィラークの著書「蛇の言葉を話した男」は日本でも話題作となりました。エストニアの自然崇拝に基づいたファンタジーを描き出していることが今回の作品とも共通しています。

作品はエストニアのドイツ人荘園領主の家族とその周辺に住む貧しいエストニア人たち。使用言語もドイツ語とエストニア語なので、日本語で字幕を見ているだけだと、気にしなければわからないと思います。

さて、すでにさまざまな映画の感想を目にしますので、ストーリーそのものはその他のみなさんのコメントを参考にしてもらうとして・・・私が見た映画の考察は、エストニアの生活という観点から見たこの映画の楽しみ方をお伝えできればと思います。

荘園は20世紀には、1200以上もありました。こちらをご覧ください。エストニアの歴史としては、常にエストニア人は領主の僕でありました。領主とは、スウェーデン、ドイツなどその土地の持ち主でした。ですからエストニア人では「貴族」や「王」は存在しません。

この映画でも、主人公である貧しいリーナの服装はびっくりするようなボロボロの服でした。ノベンバーというだけあり、11月は日本の11月と違い、霜がおりるほど凍てつく寒さになっています。穴が空いたリネンの服の重ね着、中綿のようなコートを羽織り、包帯のようなもので靴をぐるぐる巻きにして、防寒対策をしていました。
背中をまっすぐにして歩けない程の低さの家。理由は家畜小屋だったと推察します。人間の住む大きさの家には暮らせない程の貧しさです。

亡くなったリーナの母は、死者として戻ってきた時に食べていたパン。エストニアでは現在も親しまれているライ麦パンです。エストニアのライ麦パンは、少し甘味が強く、白黒だったから黒が強調されていましたが、黒いシロップが含まれているパンのように見えました。ずっしりと重いパンは、基本はスライスして食べますが、食器がないためか、かじっていました。ライ麦パンはさまざまな種類のものがあります。こちらで食べ比べレポートがありますので、ご参考にどうぞ。

リーナがパンを食べるかと聴かれていたシーンでは、白いパンを出されていたような気がします。(見間違っていたらすみません)白いパンはsai(サイ)と呼ばれ、小麦粉で作られたパンです。映画でも一瞬「sai」とセリフで言っていたような気がします。周りが暗いシーンでは白いパン、明るいシーンでは黒っぽいライ麦パンを用いていて、映像としてもコントラストがあり、色にこだわって作られたのだと実感しました。

他にも、白と黒という対照的な色の使い方は主人公のリーナの髪の毛の色は金髪ですが、荘園の娘の髪の毛の色はブラウン。映像で見るとやはりその差ははっきりしています。

植物のすぐりが登場していましたが、赤いので映画の中では、血の代わりとして使われていました。かなり寒い時期なので、冬になる前に、摘んでおいたものを保管していたように見えました。家庭ではビタミン補給としてジャムなどに加工されて保存しています。

『ノベンバー』(C)Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017

ドレスと交換した宝石の胸のペンダントはエストニアのロシアとの国境の地域、セト地方の民族衣装でよく見られるものです。女性の胸にペンダントのように首からチェーンで下げます。
豪華なものは非常に大きく、女性の乳房をかたどっているとも言われています。孫ができるまでの間に着けるアクセサリです。
映画の中ではそれほど大きなものではないのに、非常に大切に扱っていることがわかります。この様子からこの家の貧しさがうかがいしれます。また、首にかける鎖は見当たらず、代々受け継いでいくうちに鎖の部分は無くなったのか売ってしまったかと想像しました。

そして荘園の建物も、過去の栄華を物語るように、もう、ほとんどいない屋敷に住んでいる領主の末裔です。衰えた家の領主である男爵が美しい服を着てピアノに興じるシーンがありました。
現在も荘園は映画で見るような修理がなされていない建物もあります。旧ソビエト時代には別のことに使われていることが多かったので、美しく管理されているものはほとんどありませんでした。
独立回復後、リノベーションして美しく公開されている荘園もあります。美しい荘園にはぜひエストニアに足を運んだ時には訪れてほしいと思います。

映画の中から見られるエストニアの生活を知れば「ノベンバー」がさらに味わい深いものになるでしょう。

アイキャッチの画像:『ノベンバー』(C)Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017